ミトコンドリアを活性化する食品由来成分の探索：ケンフェロールへの期待（病態解析学分野 櫻井俊宏准教授／惠 淑萍教授）
ポイント
- 肝培養細胞において、ケンフェロールがミトコンドリアの呼吸機能を増加させる作用、つまり、エネルギー産生能力を増加させる作用を持つことを見いだしました。
- 脂肪肝モデルの肝培養細胞において、ケンフェロールがカルジオリピンの量や質を改善する作用を持つ可能性を明らかにしました。
- 以上は、ミトコンドリア機能の活性化に寄与する働きを示唆し、将来的にケンフェロールが代謝異常関連脂肪性肝疾患の予防のための機能性成分として期待される結果でした。
概要
ミトコンドリア機能の活性化はヒトの活動において重要なことは周知の事実ですが、その機能の活性化を標的とする食品成分は未だ少なく、その探索は近年注目すべき研究領域と考えられます。カルジオリピン (CL) は、ミトコンドリア内膜に局在する 4 本のアシル鎖（脂肪酸）を含む脂質です。 CL はミトコンドリア機能の維持において重要な役割を果たします。特に、最近、脂肪肝は代謝異常関連脂肪性肝疾患（MASLD）という定義に変更され、注目されています。脂肪肝では CL 関連の異常をきたすことが知られており、CLの量やその代謝のバランスを最善に保つための物質を見いだすことがMASLDを予防するための有望なアプローチとなり得ます。
また、天然フラボノイドであるケンフェロール (KMP) は、茶葉、ほうれん草、ケール、ブルーベリーなどに含まれています。KMPには肝臓保護作用や骨格筋細胞でのATP*産生促進作用があることが知られています。 しかし、脂肪肝状態における CL 代謝に対するKMPの作用は不明です。本研究では、肝培養細胞（C3A 細胞）及び脂肪肝モデルの肝培養細胞 (リノール酸で刺激したC3A 細胞)におけるCL代謝に焦点を当てて、KMP のミトコンドリア機能に対する作用を調査しました。
その結果、KMPは、ATP産生、基礎呼吸、プロトンリークなどのミトコンドリアの呼吸機能を促進しました。また、KMPはミトコンドリアの β 酸化に関与するCPT1AおよびPPARGC1Aの遺伝子発現レベルも増加させました。抗分解能の液体クロマトグラフィー/質量分析を用いるCL分子種およびその関連分子の包括的な一斉分析の結果、KMPが総CL含有量だけでなく、ATP生成能と深く関係すると考えられているCL72:8という分子種も増加させることが示されました。さらに、KMPはミトコンドリア機能低下の指標と考えられるモノリソカルジオリピン (MLCL)/CL 比を改善しました。
以上の結果は、脂肪肝モデル細胞においてKMPがエネルギー産生の促進やミトコンドリアのCLプロファイルの改善と関連し、MASLDの予防における有用な食品由来成分として機能することにつながると期待されます。
*ATP: アデノシン三リン酸。生体内のエネルギーの源。
出版情報
・論文タイトル
Kaempferol Improves Cardiolipin and ATP in Hepatic Cells: A Cellular Model Perspective in the Context of Metabolic Dysfunction-Associated Steatotic Liver Disease
・著者
Akiko Sakurai1, Toshihiro Sakurai1,*, Hsin-Jung Ho1, Hitoshi Chiba2, Shu-Ping Hui1*
1 Faculty of Health Sciences, Hokkaido University, Sapporo, Japan
2 Department of Nutrition, Sapporo University of Health Sciences, Sapporo, Japan
* 責任著者
・ジャーナル
Nutrients
(IF: 5.9 (2022), NUTRITION & DIETETICSカテゴリーランキング18.7%)
・掲載日
2024年2月11日
お問い合わせ先
北海道大学大学院保健科学研究院 病態解析学分野
准教授 櫻井俊宏 / 教授 惠 淑萍
E-mail：sakura[at]hs.hokudai.ac.jp / keino[at]hs.hokudai.ac.jp [at]を@に変えてください