北海道大学の起源は、1876年に設立された札幌農学校に遡り、1918年北海道帝国大学、1919年医学部が設置されました。保健医療職の育成は、医学部設置の翌年、1920(大正9)年9月に看護師、1921(大正10)年10月に助産師、1956(昭和31)年4月には診療放射線技師、1966(昭和41)年4月に臨床検査技師の教育が、医学部内に設置された各々の附属学校において開始されました。その後、理学療法士・作業療法士の教育は、1981(昭和56)年4月、北海道大学医療技術短期大学部において開始されています。そして2003年に医学部保健学科、2008年4月に大学院保健科学院が設置され、2010年に博士後期課程が開設されました。保健科学における学部教育課程は、保健学科として医学部に属し、看護学、放射線技術科学、検査技術科学、理学療法学、作業療法学の5専攻の国家試験を伴う医療専門職の教育課程を形成しています。大学院保健科学院では、医療専門職の各専攻に対応する分野や科目群に加えて、健康科学という分野・科目群も設け、理工学、薬学、農学、その他人文科学系の分野を背景とする人々にも門戸を開き、新たな発展を模索する学府を目指しています。2023年は、保健学科が設置されて20年目、保健科学院は15年目を迎えます。学部の4年制化、大学院設置には時間を要しましたが、保健医療技術者養成においては長い歴史と伝統を経て現在に至っているといえます。
現代社会は、少子高齢社会における人口減少、大規模災害や人類を脅かす感染症、紛争など、多くの課題に直面しています。一方では、ICTおよび人工頭脳(AI)などの技術の進歩により、どのように社会が発展していくのか希望が膨らむと同時に、これによってどのような課題が生じるのか、人々は倫理観をもとに、これにどのように対処できるのかが問われるとも考えます。そして、COVID-19の例からもわかるように、健康問題については地球規模で取り組むことが必要な時代です。しかし、どのような時でも、どのような場面でも、人々の命、健康、暮らしが最も重要で、価値あるものであることに変わりはないと考えます。保健科学は、健康もしくは病気等の前段階における予防と予知なども含めて、健康を核として、あらゆる切り口から教育、研究、実践していくことのできる学術領域です。
「保健医療2035提言書」では,疾病の治癒と生命維持を主な目的とする「キュア中心」の時代から、「ケア中心」の時代への転換が提唱されています。病気と共存しながら、生活の質(QOL)の維持・向上をはかる必要性がますます高まっています。ケア中心への転換は、まさに、対象者に寄り添い、理解に努め、対象者自身が求める生活、生きることを支援することから始まります。このためには、他者のことを深く理解し続けようとする姿勢も当然必要ですが、同時に、専門知識や最新のエビデンスに裏付けられた医療の提供が求められます。さらに、いかに健康で長生きできるかは、人々の幸福にもつながる重要な課題です。これらの健康課題の解決につながる新たな知を創出すること、国内外問わず、多様な現場で実践できる人材育成を進めることは保健科学研究院のミッションです。
北海道大学の基本理念である、フロンティア精神、国際性の涵養、全人教育、実学の重視、これら全てを強く想起させる研究と教育、地域課題への解決に向けた社会貢献がここで展開されます。これから起こりえる課題を見据え、受け継がれる志を大切に、人々の健康と幸福のために、目指す未来へともに進んでいけるように、構成員一丸となって尽力していきたいと思います。
大学院保健科学研究院長 矢野 理香