皮膚汚れを除去するために過剰な拭き取りは不要~皮膚を傷つけずに汚れが除去できるディスポタオル清拭方法を提案~(基盤看護学分野 矢野理香教授)
ポイント
- 臨床の清拭実践では、タオル素材(綿・ディスポ)に関わらず、強く、過度に拭き取りを行う看護師が潜在する。
- タオル素材に関わらず、弱圧(10-20 mmHg)で3回の拭き取りは、十分な清浄効果がある。
- 患者の皮膚トラブルを予防できる皮膚に優しい清拭ケアプログラムの開発に繋がることが期待できる。
概要
北海道大学大学院保健科学研究院の矢野理香教授、同大学院保健科学院博士後期課程の紺谷一生氏らの研究グループは、皮膚を傷つけずに汚れが除去できる質の高い清拭方法の構築を目指し、ディスポタオル清拭において皮膚汚れが除去できる低刺激な清拭圧(拭く強さ)と拭き取り回数の組み合わせを新たに提案しました。
清拭は入浴が困難な患者の皮膚を温タオルで拭き取ることで清潔を保つ看護技術です。しかし、過度の摩擦刺激(清拭圧・回数)はスキンテア(皮膚裂傷)などの皮膚トラブルを引き起こすリスクを孕みます。そのため、皮膚を傷つけずに汚れを除去できる質の高い清拭実践が求められます。研究グループの先行研究では、一般的な綿タオル清拭において、弱圧で3回の拭き取りは皮膚バリア機能を維持しながらも十分な清浄効果を示しました。しかし、近年欧米を中心に普及が進むディスポタオル清拭において、摩擦刺激に関するエビデンスは検討されていません。
研究グループは、臨床看護師101名を対象に清拭圧と拭き取り回数の実態調査を行った結果、タオル素材(綿・ディスポ)に関わらず、皮膚障害につながる過度な拭き取りを行う看護師が潜在することを明らかにしました(図1)。次に、実態に基づき定義された清拭圧と拭き取り回数について、十分な清浄効果を示す組合せを特定する準実験研究を行いました。成人50名の左右前腕に脂溶性・水溶性汚れを付着させ、4段階に分類された清拭圧を無作為に割り当て、ディスポタオルで6回拭き取りました。各組合せの汚れ除去率は、色彩画像分析と統計分析を応用した独自手法により、厳密に算出しました。その結果、ディスポタオル清拭においても、弱圧(10–20 mmHg)で3回の拭き取りは十分な清浄効果を有することが示唆されました(図2)。
本研究成果は、使用するタオル素材に関わらず、汚れを十分に除去するために過剰な拭き取りは必要ないことを示唆します。オリジナルな研究手法(臨床実態に基づく清拭圧の定義化・皮膚汚れ除去率の厳密な定量化)により、弱圧清拭でもタオルに関わらず汚れが除去できることを初めて可視化した研究です。本成果は、臨床清拭実践の質向上と、患者の皮膚トラブル(皮膚乾燥やスキンテアなど)を予防できる皮膚に優しい清拭ケアプログラムの開発に繋がることが期待されます。
なお、本研究成果は2023年1月16日公開のBMC Nursing 誌にオンラインで掲載されました。
出版情報
・論文タイトル
Minimum wiping pressure and number of wipes that can remove dirt during bed baths using disposable towels: a multi-study approach
・著者
Issei Konya1,2, Kotone Nishiya1, Inaho Shishido3, Marie Hino1, Kazuhiro Watanabe1, Rika Yano3
1 Graduate School of Health Sciences, Hokkaido University, Sapporo, Japan
2 Research Fellow of Japan Society for the Promotion of Science, Tokyo, Japan
3 Faculty of Health Sciences, Hokkaido University, Sapporo, Japan
・ジャーナル
BMC Nursing
・DOI
10.1186/s12912-022-01162-z
・掲載日
2023年1月16日
お問い合わせ先
北海道大学大学院保健科学研究院 基盤看護学分野・教授 矢野理香
E-mail:r-yano[at]med.hokudai.ac.jp [at]を@に変えてください