最適な抗酸化物質の探索のための、細胞を用いたスクリーニング手法の開発(病態解析学分野 櫻井俊宏准教授)
ポイント
- 酸化脂肪滴の形成及びミトコンドリア膜脂質の異常を同時評価するための、肝細胞系モデルを構築した。
- 本モデルは間接抗酸化作用(細胞内抗酸化酵素発現誘導作用)を持つ機能性物質の探索に特化したプラットフォームであり、質量分析を駆使して脂質の網羅的分析を実施することで評価可能とした。
- 本プラットフォームを用いて本抗酸化候補物質としてケルセチンの有用性が示唆されたように、今後も本プラットフォームは病態評価や創薬開発、機能性食品研究への応用が期待された。
概要
酸化脂肪滴形成およびミトコンドリア膜カルジオリピン(CL)プロファイル異常は、代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD)と関連していると考えられています。本研究は、細胞内の過酸化脂質の蓄積とミトコンドリア膜脂質の異常という「酸化ストレス関連の病態マーカー」に着目し、それらに作用する間接抗酸化物質を探索するためのリピドミクス(脂質オミクス)ベースの細胞スクリーニングプラットフォームを開発したものです。
従来の抗酸化評価法は活性酸素種(ROS)評価や単純な抗酸化酵素活性測定に依存することが多く、細胞内で実際にどのような脂質分子が酸化され、どの経路が損なわれるかを捉えにくいという課題がありました。本研究ではこれらの課題を克服するために、酸化脂肪滴形成およびミトコンドリア膜脂質異常という「機能的で病態関連性の高い標的脂質種」を決定してそれらを測定するプロセスをとって、プラットフォームを構築しました(図1)。

本法は、酸化ストレス刺激に先立ち添加した間接抗酸化剤が酸化脂肪滴の形成保護効果を有するかどうかを検討できる。本法の特徴として、酸化LDL(oxLDL)添加によって過酸化脂質を蓄えた脂肪滴の形成やミトコンドリア膜脂質異常を同時に誘導できる。
まず、細胞モデル開発においては、酸化したヒト低比重リポタンパク質(酸化LDL;oxLDL)を肝培養細胞に添加して酸化ストレス性脂肪毒性を誘導し、酸化脂肪滴とミトコンドリア膜の異常シグナルを高感度に検出できる解析系を確立しました。次に、このシステムを用いてさまざまな間接抗酸化作用が知られているポリフェノール類を評価しました。その結果、ケルセチンは脂肪滴の主要な脂質および脂質ヒドロペルオキシド、特に5つ以上の二重結合を持つトリグリセリドおよびトリグリセリドヒドロペルオキシドを有意に減少させました。さらに、蛍光顕微鏡観察により、ケルセチンは酸化脂肪滴のサイズを小型にし、ミトコンドリア機能低下の指標と考えられるモノリゾカルジオリピンも減少させることが明らかになりました(図2)。

ケルセチンは脂肪滴の主要な脂質および脂質ヒドロペルオキシドを有意に減少させた。さらに、ケルセチンはミトコンドリア機能低下の指標と考えられるモノリゾカルジオリピンも減少させた。
以上のことから、この方法は様々な脂質を同時に分析することにより、酸化脂肪滴形成およびCL異常に対する優れた予防効果を持つ間接抗酸化物質のスクリーニングに有用である可能性を示しています。今後創薬や機能性食品の開発などの様々な分野への応用が期待されます。
出版情報
研究論文名(書籍名): Development of a lipidomics-based cell screening platform for indirect antioxidants targeting oxidized lipid droplet formation and mitochondrial membrane abnormality
著者:Yuzu Shibata#, Toshihiro Sakurai#,*, Akiko Sakurai, Misuzu Sato, Shu-Ping Hui*
Faculty of Health Sciences, Hokkaido University, Sapporo 060-0812, Japan
#筆頭著者、* 責任著者
ジャーナル:Nutrients
※IFおよびカテゴリーランキング: IF: 5.0 (2024), NUTRITION & DIETETICSカテゴリーランキング15.0%
DOI:https://doi.org/10.3390/nu18050719
掲載日:2026年2月24日
お問い合わせ先
北海道大学大学院保健科学研究院
櫻井 俊宏
E-mail:sakura[at]hs.hokudai.ac.jp [at]を@に変えてください