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北海道大学 医学部保健学科
大学院保健科学院
大学院保健科学研究院

経頭蓋ランダムノイズ刺激のワーキングメモリ改善効果を証明(リハビリテーション科学分野 澤村大輔教授)

ポイント

  • 左背外側前頭前野における経頭蓋ランダムノイズ刺激(tRNS)が若年成⼈のワーキングメモリの増強に寄与
  • ワーキングメモリの成績が低い⼈ほど⼤きな効果が得られる可能性
  • ワーキングメモリの低下をきたす様々な疾患への経頭蓋ランダムノイズ刺激の臨床応⽤に期待

概要

北海道⼤学⼤学院保健科学研究院の澤村⼤輔教授、同⼤学院保健科学院修⼠課程修了⽣(現:札幌秀友会病院)の時國幸奈⽒らの研究グループは、臨床への応⽤が期待される経頭蓋電気刺激(tES)の1 つである経頭蓋ランダムノイズ刺激(tRNS)のワーキングメモリ(WM)増強効果に着⽬し、その他のtES の効果との⽐較によりtRNS の効果を初めて明らかにしました。

tES は頭⽪に装着した電極から微弱な電流を流すことにより⼤脳⽪質および⽪質下の神経細胞の興奮性を調節する⾮侵襲的な脳刺激法であり、近年、神経可塑性を誘導するニューロモデュレーションの⼿法として神経⽣理学、リハビリテーション科学分野で注⽬されています。これまで代表的なtES である経頭蓋直流電気刺激(tDCS)のWMの増強効果は確認されてきましたが、⽐較的最新の⼿法であるtRNS の効果は⼗分に⽰されていませんでした。しかしながら、プラセボ刺激(シャム刺激)に対するtRNS の効果量がtDCS のそれよりも⼤きいことを⽰す報告が知覚、認知機能を中⼼に散⾒されていたことから、同様にWMにおいてもtRNS が他の刺激条件よりも顕著な増強効果を⽰すという仮説を⽴てました。刺激する脳領域は、WM への関与が⽰されている左背外側前頭前野とし、WM の課題には、現在の刺激が2回前に提⽰された刺激と同じかどうかを素早く答えるDual 2-back課題を採⽤しました。

右利きの健康な若年成⼈120名を対象とし、tRNS と既に⼀定のエビデンスが確⽴されているtDCS を含む4つの刺激群に無作為に割り付け、刺激中および刺激後のWM課題成績を⽐較しました。その結果、tRNS条件において有意なWM課題の成績向上が認められました(図1)。また、tRNS条件では、WM課題の成績が低い⼈ほどその効果が⼤きくなることを⽰す⼤きな負の勾配を持つ直線関係が⽰されました(図2)。

本研究の成果はtRNS がWM の改善において有望な介⼊⼿法であることを⽰唆するものであり、ワーキングメモリの低下をきたす脳損傷や神経変性疾患、精神疾患におけるtRNS の臨床応⽤につながることが期待されます。

図1. 左図:Dual 2-back課題.聴覚刺激と視覚刺激が同時に提示され、現在の刺激が2回前に提示された刺激と同じかどうかを素早く答えるWM課題. 右図:経頭蓋電気刺激の電極の位置および4種類の異なる刺激の概略図
図2. 左図:4種類の刺激条件の比較. tRNS条件でのみ有意な刺激中の効果を確認.右図:刺激前のWM課題成績と刺激中のWM課題成績変化. WM課題の成績が低い人ほどWM課題成績の変化が大きい(tRNSの効果が大きい)ことを確認。

出版情報

・論文タイトル
Differing effectiveness of transcranial random noise stimulation and transcranial direct current stimulation for enhancing working memory in healthy individuals: a randomized controlled trial

・著者
Yukina Tokikunia; Akihiro Watanabea ; Hisato Nakazonob ; Hiroshi Miuraa; Ryuji Saitoa ; Duan Miaowena; Kanako Fuyamac; Keita Takahashic; Kazufumi Okadac; Kazuhiro Sugawarad; Harukazu Tohyamae; Susumu Yoshidaf; Kenneth N.K. Fongg; Daisuke Sawamurae*
a Graduate School of Health Sciences, Hokkaido University, Sapporo, Japan
b Department of Occupational Therapy, Faculty of Medical Science, Fukuoka International University of Health and Welfare, Fukuoka, Japan
c Data Science Center, Promotion Unit, Institute of Health Science Innovation for Medical Care, Hokkaido University Hospital, Sapporo, Japan
d Department of Physical Therapy, Sapporo Medical University, Sapporo, Japan
e Department of Rehabilitation Science, Faculty of Health Sciences, Hokkaido University, Sapporo, Japan
f Department of Rehabilitation Sciences, Health Sciences University of Hokkaido, Tobetsu, Japan
g Department of Rehabilitation Sciences, Hong Kong Polytechnic University, Hong Kong, Hong Kong
* 責任著者

・ジャーナル
Journal of NeuroEngineering and Rehabilitation
(IF: 5.2, REHABILITATION カテゴリーランキング 2.37%)

・DOI
10.1186/s12984-024-01481-z

・掲載日
2024年10⽉14⽇

お問い合わせ先

北海道大学大学院保健科学研究院 リハビリテーション科学分野
教授 澤村 大輔
E-mail:D.sawamura [at] pop.med.hokudai.ac.jp [at]を@に変えてください

投稿日: 2024年10月25日

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