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北海道大学 医学部保健学科
大学院保健科学院
大学院保健科学研究院

妊娠前の親の放射線被ばくと子どもへの影響に関する新たな枠組み(医用生体理工学分野 福永久典教授)

ポイント

  • 親や子どもに見つかった変化と遺伝性疾患を分けて考える方法を提案
  • ヒトの研究と動物実験の知見について証拠(エビデンス)の強度に応じて整理
  • 放射線事故・原子力災害後や医療現場で、子どもへの影響を根拠に沿って説明する道筋を提示

概要

北海道大学大学院保健科学研究院の福永久典教授(同大学環境健康科学研究教育センター副センター長)と電力中央研究所の浜田信行上席研究員は、妊娠前に親が放射線を浴びた場合の子どもへの影響をどのように説明できるか検討しました。著者らの動物モデル研究を含む最近の研究動向を読み解き、放射線遺伝性影響に関する知見を層別化する新たな枠組みを提案しました。

これまで放射線の遺伝性影響は、被ばくによって親の生殖細胞(精子や卵子など)の遺伝情報が変わり、それが子どもに伝わって病気につながるかどうかという観点(mutation-to-disease concept)から評価されてきました。広島、長崎の被爆者の子どもなどを対象とした従来の研究では、親の放射線被ばくが原因と確認された遺伝性疾患の増加は見つかっていません。一方、最近の解析技術の進歩によって、病気とは直結しない分子レベルや細胞レベルでの変化も測れるようになり、放射線の遺伝性影響をどのように解釈すべきか再考を迫られていました。

そこで本研究では、放射線遺伝性影響に関する知見を次の4つに層別化する枠組みを新たに提案しました:
① 放射線を浴びた親やその精子・卵子などに、分子や細胞の変化が見つかる
② 放射線を浴びていない子どもにも、関連する変化が見つかる
③ 親の被ばくなどと関連して、子どもの発達や体の働きの変化が繰り返し確かめられる
④ ヒトの遺伝性疾患について、親の被ばくが原因だと示される
これらは証拠(エビデンス)の種類であり、①から④へ必ず進むという意味ではありません。

例えば著者らのマウス研究では、親マウスへの照射後に生まれた仔マウスでは細胞のエネルギー産生に関わるミトコンドリアのDNA量(コピー数)に変化が見られました。これは②に当たる観察です。ただし、この結果だけで、子どもが病気になることや、ヒトに遺伝性疾患が生じることは示せたわけではありません。

放射線事故・原子力災害後や医療被ばくについて、被ばく後の子どもへの影響について相談を受ける際は、まずヒトの研究で分かっていることを伝えます。そのうえで、最近の研究成果がヒトと動物のどちらで得られたのか、どこまで健康との関係が分かっているのかを説明する一つの方法として本モデルが提案されました。

なお本研究はJST創発的研究支援事業(JPMJFR211E)の支援を受けました。

研究の概念:
左側は親の被ばく後の遺伝情報の変化が子どもに伝わり、病気につながるかを調べるという従来の考え方です。右側は今回提案したモデルであり、もし子供に分子レベルでの変化が見つかっても、必ずしも病気が起こるとは限らないという最近の知見を反映しています。

出版情報

・研究論文名
Hereditary Effects and Biological Signals after Preconception Radiation Exposure: A Framework for Environmental Health Communication

・著者
福永久典(北海道大学大学院保健科学研究院・環境健康科学研究教育センター)
浜田信行(電力中央研究所・近畿大学大学院薬学研究科)

・ジャーナル名
Environment & Health
※IFおよびカテゴリーランキング:IF 8.8, ENVIRONMENTAL SCIENCES 41/395, PUBLIC, ENVIRONMENTAL & OCCUPATIONAL HEALTH 18/443

・DOI
https://10.1021/envhealth.6c00485

・掲載日
2026年9月30日(水曜日)

お問い合わせ先

北海道大学大学院保健科学研究院 教授
北海道大学環境健康科学研究教育センター 副センター長
福永 久典(ふくなが ひさのり)
E-mail:hisanori.fukunaga [at] hs.hokudai.ac.jp [at]を@に変えてください

教員情報

投稿日: 2026年10月02日

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