「光る精子」をもつ精子形成可視化マウスの開発に成功~革新的な生殖毒性スクリーニング技術・イノベーション創出に期待~
ポイント
- 雄の生殖機能を「生体内でリアルタイム可視化」できる世界初のノックインマウスを開発
- 薬剤・化学物質・放射線による精子形成障害・回復過程を、同一個体で経時的・定量的に追跡可能
- 従来の交配試験・解剖に依存しない生殖毒性評価を実現し、動物数を大幅削減(3Rs促進)
- 創薬、化合物安全性評価、がん治療後の男性不妊研究に新たな技術基盤を提供
概要

北海道大学大学院保健科学研究院の福永久典准教授(環境健康科学研究教育センター副センター長)、同大学大学院医学研究院の白土博樹教授、大阪大学微生物病研究所の宮田治彦准教授、英国クイーンズ大学ベルファストの Kevin Prise 教授らの国際共同研究グループは、雄マウスの精子形成を生体内でリアルタイム可視化できる新しい遺伝子改変動物モデル「Acr-Luc ノックイン(KI)マウス」の開発に成功しました。
男性生殖機能に対する医薬品・環境化学物質・放射線の影響を調べる生殖毒性試験は、新薬開発や環境リスク評価に不可欠です。しかし従来は、マウスを交配させて受胎を確認したり、解剖して精巣組織を解析するなど、時間・労力・動物数のコストが大きい方法が主流でした。
本研究で開発した Acr-Luc KI マウスでは、生殖る細胞がルシフェリン反応により発光するため、特殊なカメラで精子形成の状態を体外から非侵襲的に連続測定できます。これにより、解剖などを行うことなく、同一個体で損傷と回復の経過を長期にわたってリアルタイム追跡できる世界初の生殖機能可視化モデルが実現しました。
さらに、検証実験では、放射線照射により発光が一時的に低下すること、低線量では数週間で回復する一方、高線量では回復しないことが確認され、放射線被ばくによる一時不妊・永久不妊の病態を可視化することにも成功しました。さらに、モンテカルロシミュレーションによる高精度な線量評価システムと組み合わせることで、線量と不妊リスクを統合的に評価できる新しい技術基盤も確立できました。
「光る精子」をもつAcr-Luc KI マウスは、生殖毒性試験の効率化だけでなく、創薬研究、環境曝露評価、がん治療後の男性不妊リスクの検討など、多様な応用が期待できる革新的モデルです。また、従来に比べて、必要となる実験動物数を大幅に削減できることから、国際的に推進される3Rs実現に寄与する技術としても有望です。
本研究は、科学技術振興機構(JST)創発的研究支援事業「環境放射線被ばく後の精子形成と次世代影響」(JPMJFR211E)、文部科学省・日本学術振興会 科学研究費助成事業・基盤研究B「空間分割照射後の精巣組織代償効果の解明・制御と数理モデル開発」(JP24K03079)、武田科学振興財団の支援を受けて実施されました。
本研究成果は、日本時間2026年1月4日(日曜日)公開のMedComm誌に掲載されました。
出版情報
・論文タイトル
Longitudinal analysis of male fertility using an Acr-Luc knock-in mouse model: A preclinical platform for reproductive toxicity testing(Acr-Luc ノックインマウスを用いた雄生殖機能の経時的解析:生殖毒性試験のための前臨床プラットフォーム)
・著者
福永 久典(責任著者)、清野 良輔、松谷 悠佑、髙島 弘幸、石川 正純、小野寺 康仁、白土 博樹、宮田 治彦、Kevin M. Prise
・ジャーナル
MedComm(実験医学の専門誌)
※IF 10.7, MEDICINE, RESEARCH & EXPERIMENTALカテゴリー 14/195
・掲載日
日本時間2026年1月4日(日曜日)(オンライン公開)
お問い合わせ先
北海道大学大学院保健科学研究院 准教授
北海道大学環境健康科学研究教育センター 副センター長
福永 久典(ふくなが ひさのり)
E-mail:hisanori.fukunaga [at] hs.hokudai.ac.jp [at]を@に変えてください