心房細動患者における心エコー検査を用いた心不全の診断手法を開発(病態解析学分野 村山迪史助教)
ポイント
- 心不全の診断が難しい心房細動患者を対象に、心エコー検査を用いて拡張早期の三尖弁と僧帽弁の開放順序に注目し、左房圧の上昇にともない僧帽弁が早期に開放する現象を発見した。
- 心エコー検査で拡張早期の三尖弁と僧帽弁の開放順序を視覚的に評価することにより、簡便かつ高い精度で心不全を診断できることを明らかにし、この手法の精度が心不全バイオマーカ-より優れることを示した。
- 外部検証コホートにおいて検証を行った。
概要
北海道⼤学⼤学院保健科学研究院の村山迪史助教、加賀早苗准教授らの研究グループは、北海道大学病院、手稲渓仁会病院、順天堂大学、心臓病センター榊原病院および神戸市立医療センター中央市民病院との共同研究により、心不全の診断が難しい心房細動患者を対象に、心エコー検査により視覚的に評価した拡張早期の三尖弁と僧帽弁の開放順序に注目することで、簡便に心不全を診断できることを報告しました(図1)。
心房細動の患者数は社会の高齢化に伴い増加の一途を辿っています。心房細動は心不全の原因となるだけでなく、心房細動患者における心不全の合併は強力な予後不良因子となります。したがって、心房細動患者において正確に心不全を診断することは重要です。日常診療における心不全の診断には非侵襲的な心エコー検査が広く用いられます。しかし、これまで、心拍変動が大きい心房細動患者に対して使用できる心不全の診断法は確立されていませんでした。そこで、北海道大学病院において心エコー検査と心臓カテーテル検査が施行された心房細動患者119例を対象に、左房圧≧15 mmHgを心不全と定義し、心エコー指標を用いた心不全の診断能を検討しました。加えて、他の4施設における心房細動患者189例を対象に外部検証を行いました。その結果、拡張早期に僧帽弁が三尖弁よりも早く開放する所見は左房圧の上昇を反映しており(図1、2)、この所見を用いることで高い精度で心不全を診断できることがわかりました(図3左)。さらに、外部検証コホートにおいても同様の結果が得られることを確認しました(図3右)。
本研究の成果は、循環器診療に携わる医療従事者にとって、日常臨床における心房細動患者の心不全診断の要となる手法になる可能性があります。なお、本研究の成果は、11月13日にアメリカ心臓協会のCirculation: Cardiovascular Imaging誌に公開されました。



論文情報
・論文名:Validation of Left Ventricular Filling Pressure Evaluation by Order of Tricuspid and Mitral Valve Opening in Patients With Atrial Fibrillation
・著者
Hisao Nishino1,2, Michito Murayama1,3, Hiroyuki Iwano1,4, Nobuyuki Kagiyama5, Yutaka Nakamura5, Yuka Akama5, Misako Toki6, Sachiko Takamatsu7, Taiji Okada8, Yasuyuki Chiba9, Masahiro Nakabach1,2, Shinobu Yokoyama1,2, Mana Goto1,2, Yukino Suzuki1, Suguru Ishizaka9, Ko Motoi9, Yoji Tamaki9, Hiroyuki Aoyagi9, Kosuke Nakamura9, Sanae Kaga1,3, Chiaki Watanabe2, Kiwamu Kamiya9, Toshiyuki Nagai9, Takanori Teshima1,2, Toshihisa Anzai9
1 Diagnostic Center for Sonography, Hokkaido University Hospital, N14, W5, Kita-ku, Sapporo 060-8648, Japan
2 Division of Laboratory and Transfusion Medicine, Hokkaido University Hospital, N14, W5, Kita-ku, Sapporo 060-8648, Japan
3 Department of Medical Laboratory Science, Faculty of Health Sciences, Hokkaido University, N12, W5, Kita-ku, Sapporo 060-0812, Japan
4 Division of Cardiology, Teine Keijinkai Hospital, 1-40, Maeda 1-jo 12-chome Teine-ku, Sapporo 006-8555, Japan
5 Department of Cardiovascular Biology and Medicine, Juntendo University Graduate School of Medicine
6 Department of Clinical Laboratory, The Sakakibara Heart Institute of Okayama, Okayama, Japan
7 Department of Nursing, The Sakakibara Heart Institute of Okayama, Okayama, Japan
8 Department of Cardiovascular Medicine, Kobe City Medical Center General Hospital
9 Department of Cardiovascular Medicine, Faculty of Medicine and Graduate School of Medicine, Hokkaido University, N15, W7, Kita-ku, Sapporo 060-8638, Japan
・ジャーナル
Circulation: Cardiovascular Imaging
(IF6.5, RADIOLOGYカテゴリーランキング 6%)
・DOI
10.1161/CIRCIMAGING.124.017134.
・掲載日
2024年11⽉13⽇
※詳細は、北海道大学プレスリリースをご覧ください。
お問い合わせ先
北海道大学大学院保健科学研究院 病態解析学分野
助教 村山 迪史
E-mail:m.michito6080 [at] gmail.com [at]を@に変えてください