全身性エリテマトーデスマウスに対する間葉系幹細胞治療~3次元ファイバー基材で培養した細胞で骨髄の自律神経障害と多臓器障害を改善~(リハビリテーション科学分野 千見寺貴子教授)
ポイント
- 全身性エリテマトーデス(SLE)モデルマウスで骨髄の自律神経障害と多臓器障害の関係性を示唆。
- 骨髄由来間葉系幹細胞の髄腔内投与によって自律神経障害の改善と共に多臓器障害が改善。
- 3次元ファイバー基材で培養した間葉系幹細胞で治療効果をさらに高めることに成功。
概要
北海道大学大学院保健科学研究院の千見寺貴子教授、札幌医科大学医学部解剖学第2講座の齋藤悠城講師らの研究グループは、全身性エリテマトーデス(SLE)モデルマウスの多臓器障害に骨髄の自律神経障害が関与していることを解明し、薬剤または間葉系幹細胞の髄腔内投与により自律神経障害を改善させると、SLEに伴う多臓器障害も改善することを発見しました。さらに、3次元ファイバー基質で培養した間葉系幹細胞が、多臓器障害への治療効果を高めることも明らかにしました。
SLEは自己免疫疾患の一つで、皮膚や腎臓、心血管、神経障害などの多臓器障害を引き起こすことが知られています。生命予後にも関わるこれらの多臓器障害のメカニズムは不明な点が多く、病態メカニズムの理解と治療法の開発は喫緊の課題です。研究グループは、SLEモデルマウスでは骨髄の自律神経障害があること、さらに薬剤によって自律神経障害を増悪させると、SLEに伴う多臓器障害が悪化することを見出しました。次に、神経系の再生に効果を示すことが期待される骨髄由来間葉系幹細胞(BMSC)をSLEモデルマウスの髄腔内に投与したところ、皮膚炎、腎炎などの多臓器障害の改善を認めました。さらにBMSCを3次元ファイバー基材で培養することで、BMSCは幹細胞性や複数の有効因子の発現を高めて、皮膚炎、腎炎などの多臓器障害を改善し、最終的には生存率が改善しました。
本研究成果は、これまで不明な点が多く残されていたSLEに伴う多臓器障害の原因の一つに、骨髄自律神経障害があることを明らかにしました。また、3次元ファイバー基材で培養したBMSCの髄腔内投与により骨髄自律神経障害を改善すると、腎障害や皮膚炎を改善させたことから、これらの成果がSLEに伴う多臓器障害の新しい治療法の発展につながることが期待されます。
なお、本研究成果は、2022年4月25日公開のSTEM CELLS Translational Medicine誌にオンライン掲載されました。
論文名:Intrathecal injection of mesenchymal stromal cell cultured on 3D fiber ameliorates multiple organ damage in murine lupus(3次元ファイバー基材で培養した間葉系幹細胞の髄腔内投与は全身性エリテマトーデスモデルマウスの多臓器障害を改善させる)
URL:https://doi.org/10.1093/stcltm/szac021
※詳細は、北海道大学・札幌医科大学プレスリリースをご覧ください。