2026年度第6回保健科学セミナー開催報告「Aging Brains, Broken Lipids, and New Treatments: Unraveling Alzheimer and Huntington Disease from Molecules to Medicine」(2026.09.07)

本講演では、アルツハイマー病やハンチントン病などの神経変性疾患について、脂質代謝や分子レベルでの変化に着目し、疾患のメカニズムを解明するとともに、新たな治療法につなげるための研究が紹介された。特に、脂質輸送体であるABCA7と神経炎症との関係や、分子イメージング、質量分析イメージング(MSI)、機械学習を用いた病態解析が主要なテーマとして扱われている。
研究の中心となるABCA7は、細胞における脂質輸送に関与するタンパク質であり、アルツハイマー病との関連が報告されている。Pahnke教授らの研究では、ABCA7が脂質輸送だけでなく、神経炎症にも関係することが研究されている。特に、NLRP3インフラマソームを介した炎症反応との関連が注目されており、ABCA7の機能が神経炎症にどのような影響を与えるかについて研究が進められている。また、ABCA7の輸送体としての活性を分子イメージングによって測定し、その活性を治療目的で調節する可能性についても検討されている。
ABCA7の機能を解析する研究に加えて、組織内の分子を可視化するための技術開発も行われている。その一つが質量分析イメージング(Mass Spectrometry Imaging:MSI)である。MSIでは、組織中に存在するさまざまな分子を検出し、それぞれの分子が組織内のどの位置に存在するのかを画像として示すことができる。この手法を用いることで、神経変性疾患に伴って組織内の分子分布がどのように変化するのかを解析することが可能となる。
さらに、MSIによって得られる大量かつ複雑な分子情報を解析するため、説明可能な機械学習(Explainable Machine Learning)やインタラクティブなバーチャル病理学を組み合わせた研究も進められている。機械学習を利用して分子情報の中から特徴的なパターンを抽出するとともに、その解析結果を人間が理解できる形で提示することで、組織内の複雑な分子変化をより詳細に解析することが目指されている。
また、研究室では、MSIを利用して得られた分子情報から、組織内に存在する複雑な分子パターンを可視化・解釈するための自動化されたバーチャル病理学パネルの開発も進められている。これは、従来の病理学的な組織観察に分子情報とデータ解析技術を組み合わせ、組織の状態を分子レベルから解析するための手法である。
このように、本講演では、ABCA7を中心とした脂質輸送と神経炎症の関係、ABCA7の活性を測定・調節するための分子イメージング、さらにMSIと機械学習を利用した組織内の分子パターンの解析について紹介された。これらの研究を通じて、アルツハイマー病やハンチントン病などの神経変性疾患を分子レベルから解析し、得られた情報を疾患の理解や新たな治療法の開発につなげる研究が進められている。
健康科学分野 准教授 Bomme Gowda SIDDABASAVE GOWDA