食と健康の情報

No.5 LDLの酸化

低比重リポ蛋白質(LDL)はコレステロールなどを組織に運搬している. LDLは狭心症、脳血管障害、心筋梗塞、動脈疾患のリスクファクターとなっているが,特にそれが変性して生じる変性LDLが高いリスクを有している.LDLの変性で最も多いのは酸化であり,酸化LDL(ox-LDL)はマクロファージにより貪食され、マクロファージの胞沫化を誘導し炎症の惹起や動脈の平滑筋増殖を引き起こすことで動脈硬化が進展する.LDLは活性酸素をはじめ、ラジカルなど種々の刺激で容易に酸化される物質である.LDL酸化のプロセスの概略を図に示した. LDLに含まれるリノール酸など不飽和脂肪酸がラジカルなどにより水素ラジカルを引き抜かれることにより酸化され共役ジエン体が形成される. そこに酸素が反応してヒドロキシラジカルが生成するが、他の不飽和脂肪酸から水素ラジカルを引き抜き、ラジカルより安定な過酸化脂質(ROOH)になる(脂質の自動酸化). ROOHはマロンジアルデヒド(MDA)などのアルデヒドに分解され最終的には非常に多くの物質が生成される. また、apoB100に多く存在するリジン残基がこれらのアルデヒドなどにより修飾されることが知られている. 先進国では冠動脈疾患が死因の上位にきているため,その原因となるox-LDLや過酸化脂質を測定することは冠動脈疾患を未然に防ぐという意味で非常に有効である.
酸化LDLまたは過酸化脂質の検出方法としては、共役ジエン法、MDAおよびその修飾体(TBARS)の検出(TBA法)、質量分析法を用いた過酸化脂質の定性および定量方法、抗原抗体反応を利用した方法、電極法など、さまざま方法が報告されている. それぞれ、利点、欠点があり、どれかの方法が万能というわけではない. 例えば、質量分析法は非常に高感度で定量測定が可能であるが、測定、解析には経験が必要で装置の維持、管理にコストもかかる. 共役ジエン法は分光計で簡易に測定可能であるが他の物質の影響も受けやすい. 最も利用されている方法のひとつがTBA法である.
高度脂質分析ラボラトリーでは、多くの方法で脂質の酸化状態を測定で可能であるが、これらの方法の中でも質量分析法、カーボンナノチューブ(CNT)電極などの開発を行っている. CNT電極を用いた酸化還元物質の測定に関して多くの報告がされている. CNT電極は未酸化LDLでは応答を示さないが、酸化LDLに応答を示すことを報告している. 現在、LDLの酸化状態を簡便に評価する測定系について開発を行っている. また、この性質を利用し、さらに装置が比較的小型化できることを利用して、脂質の酸化を抑制する物質をスクリーニングする装置としての開発も行っている. 現在、デモ測定器があり貸し出しを行っているので、興味のあるかたはご連絡をお待ちしております.

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2016年8月16日

武田晴治

過去の食と健康の情報

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  • No.12 酸化LDLから飛び出す物質 (寺嶋 駿、武田 晴治)
  • No.11 非メチレン系脂肪酸 (津久井 隆行)
  • No.10 脳と肥満 (中島進吾)
  • No.9 二つの抗酸化 (上甲紗愛、布田博敏)
  • No.8 化学合成と健康科学 (古川貴之)
  • No.7 イメージング質量分析 (早坂孝宏)
  • No.6 LDLの酸化; 平均的な情報? 個々の情報 (武田晴治)
  • No.4 マガキとNASHモデルマウス (布田博敏)
  • No.3 マガキと抗酸化物質 (布田博敏)
  • No.2 慢性腎臓病と脂質 (千葉仁志)
  • No.1 異所性脂肪蓄積 (千葉仁志)