食と健康の情報

No.1 異所性脂肪蓄積

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皆さんは「脂肪」という言葉でどんなイメージを連想されるでしょうか?スーパーのお肉の脂身(あぶらみ)、皮下脂肪、CTスキャンで見るお腹のなかの脂肪、いろいろなイメージがあります。しかし、細胞のなかにある脂肪滴をイメージされた方は少ないでしょう。実は、細胞のなかの脂肪滴こそが色々な病気と関係する重要な脂肪と考えられるのです。
写真の培養細胞のなかで白く光る丸いものが脂肪滴です。脂肪細胞は大きな脂肪滴をたくさん蓄えられる例外的な細胞ですが、その他の細胞は通常は小さな脂肪滴を少量しか蓄えません。ところが、肥満やメタボリックシンドロームのある方では、脂肪細胞以外の細胞にも脂肪滴が増加してきます。そのような脂肪滴を「異所性脂肪」と呼びます。英語ではEctopic fatです。
異所性脂肪は、細胞の機能を障害し、細胞死、組織の炎症と線維化、まれには「がん」を生じます。そのような状態をまとめて「異所性脂肪蓄積症」と呼びます。脂肪肝、脂肪筋、脂肪心筋、脂肪膵、脂肪血管などがこれに含まれます。世界的な肥満の増加に伴い、異所性脂肪蓄積症も急増していますが、正確な実状はよく分かりません。なぜなら、異所性脂肪蓄積症の診断技術はまだまだ未発達だからです。例えば、脂肪肝が進展したNASH(非アルコール性脂肪肝炎)という病気の診断法は、肝臓に針を刺して組織の一部を取ってきて顕微鏡で診断する方法(針生検)しかありません。高度脂質分析ラボの研究開発目標の一つは、細胞のなかの脂肪滴の検査法を開発し、病気との関わりを調べること、そして、食事や運動による予防・改善法を提案することです。
写真は、培養細胞にガラスの細い針(写真の右側から中央に向かう、くさび形の像がガラス針です)を刺して、脂肪滴を吸引するところです。吸引した脂肪滴はただちに高分解能質量分析計(Orbitrap)に注入されます。この方法により、生きた1個の細胞の、1個の脂肪滴の成分を調べられます。細胞培養液のなかに調べたい食品成分を加えておけば、脂肪滴の変化を観察することもできます。将来は、脂肪滴の数を減らしたり、脂肪滴が細胞に及ぼす悪い影響を抑える食品が開発されるといいですね。

 

2016年8月22日

千葉仁志

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