食と健康の情報

No.13 質量分析に必要な二つの物質

脂質には非常に多様な種類の分子が存在しており、私たちの生命や健康に対して担う役割については大部分が解明されていません。近年、液体クロマトグラフィー/質量分析(LC/MS)法の著しい進歩とともに多様な脂質分子を定量することができるようになりました。今回は質量分析で信頼性の高い定量を行うために欠かせない二つの物質についてご紹介します。
一つ目は標準物質です。標準物質は測定したい物質そのもので、高純度なものを使用するほど正確な定量となります。LC/MSでは溶液中の測定物質をイオン化し、その濃度を面積値として検出しています。そこで標準物質を溶解して希釈系列をつくり測定することで、あらかじめ既知の濃度での面積値を求めておきます。各濃度の面積値をプロットすることで検量線が求められます。未知試料を測定したときに検出された面積値を計算し、検量線から測定物質を定量することができます。このように、標準物質は目的の物質を定量するための「ものさし」となっています。
二つ目は内標準物質です。内標準物質には測定したい物質と化学的性質や構造が類似した物質が選択され、重水素標識体が一般的に使用されます。内標準物質は測定物質のイオン化が妨げられた場合に、面積値のばらつきを補正する役割があります。例えば、血液や食品の抽出物などを試料として測定するとき、試料の中には目的の定量物質以外にも多くの成分が存在します。その夾雑成分がイオン化に影響を及ぼし、正確な測定が難しくなります。この問題を解決するために、標準物質の希釈系列に一定量の内標準物質を加えて、面積の比率から検量線を求めます。未知試料の測定にも常に一定量の内標準物質を加え、面積の比率から定量することでイオン化の影響を回避できます。これは測定物質と内標準物質の性質が似ており、イオン化の影響を同じように受けることでその比率が変化しないためです。
市販されていない標準物質や内標準物質も化学合成で入手することが可能です。脂質の場合、市販品は、化合物の種類が少ない、非常に高価である、純度が低いなど様々な問題がある場合も少なくありません。私たちは、自ら合成した標準品や内標準物質を用いて脂質を定量分析することで、疾患や病態と脂質分子の関連性を正確に理解したいと考えています。

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2017年1月11日

三浦佑介

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