食と健康の情報

No.7 イメージング質量分析

研究の世界では様々な分析手法が用いられています。近年になって開発された手法の一つにイメージング質量分析があります。既存の手法である質量分析法では試料をすり潰し、分析対象を抽出・精製した上で分析することによって、その分析対象がどういった分子であるか、そしてどのくらいの量が含まれているかを明らかにすることができました。イメージング質量分析では、試料の分布まで明らかにすることができます。分析に用いられる試料は組織のままで、すり潰す必要はありません。その試料上に対してレーザーを一点一点照射していき、検出されたシグナルがどういった分子であるのか、どこにどれくらいの量が含まれるのかをソフトウェアを用いて画像情報として提示することができます。イメージング質量分析が注目される一つの理由として、代謝物や脂質といった低分子化合物も解析できることが挙げられます。これまでの研究は遺伝子やたんぱく質を中心に進められ、近年になって代謝物や脂質との関連が調べられるようになってきました。ちょうど時代にマッチした手法なのだと思います。また分析対象に標識する必要がないことから一度の分析で数百から数千種類を分析対象とすることも可能ですし、分析までの煩雑な操作を必要としないことも分析する側としては非常に取り組みやすい手法といえます。最近ではイメージング質量分析法によってヒトのがん組織において特異的に増減する分子が明らかにされ、データベースが構築されてきています。分子分布の画像情報を取得する手法は、PET(陽電子放出断層撮影)、NMR(核磁気共鳴)、そしてCT(コンピューター断層撮影法)などがあり、病院での診断に使われています。イメージング質量分析も将来的には研究分野だけでなく画像診断のツールとして活用される日が来るかもしれません。

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イメージング質量分析によるヒト大腸がん肝転移組織の分析結果
がん部位でm/z 725.5の分子が増加し、逆に正常部位ではm/z 616.1の分子が減少していることが明らかにされた(Shimma et al., 2007 JChromatogrB)

 

2016年8月16日

早坂孝宏

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